• 2014/4/8

【第1回】揺らがずとらわれず、あるがままに受け入れる

辻秀一氏、中土井僚氏をお迎えして、弊社代表取締役 羽物との対談を3回にわたってお伝えします。 最高のパフォーマンスを発揮するには? 家族や仲間と課題を乗り越えていくには?

1回目はあるがままに感じることについて。
羽物
羽物

本日はよろしくお願いします。

中土井
中土井さん

羽物さんとは『U理論』を翻訳したときに、対談させていただきました。

辻先生とは、「フロー・シンポジウム」でご一緒させていただいたことがあって、フローに関して、すごくシンプルにモデル化されたものを深くお話しされていて、甚く感銘を受けて、今回お声をかけさせていただきました。

フローとは、心理学者のミハイ・チクセントミハイによって提唱された概念。一つの活動に深く入り込んで、何の苦労もなく集中しきれる状態で、能力の最大を使い、時間を忘れて活動が行える体験のこと。
中土井

羽物さんは、ご自身がスポーツとしての体験をお持ちなので、今日は楽しみです。

さて、よく、「『フロー理論』と『U理論』って、どう関係があるんですか?」と聞かれるんですよ。

辻
辻さん

そこを解明したいですね。

中土井

おそらく、多くの方が興味あるのではないかと思う部分なんですよね。

私は勝手に、「(U理論に登場する)Uの谷の底に着いたら、フローになる」と言ってしまっているんですが、本当にそうなのかというところを探りたいなと。

羽物

『U理論入門』の中にもありましたけど、執着していたものを手放した後に、そこで起こっていることを受け入れている状態というのはフローなのかなと思いますね。そこまでいかないと、人が本当に変わったということにならないのかなと。

コンサルティングの仕事は表層を変える仕事も多いです。

中土井

そうですね、何を、どうやって、を変える。

羽物

業務を定義して、変えるための業務フローを定義して、これをやってくださいというのが基本的です。

でも、それだけでは成果が出ないということがあって、トップの意思を表明するとか、それを現場に浸透させるとか、そこまでいかないと、業務マニュアルだけ変えても組織は変わらないんです。

辻氏
「フロー理論」との出会い
中土井

辻先生は「フロー理論」という概念をどういうきっかけでお知りになったんですか。

辻

元々、僕は慶應病院で内科の医者をやっていました。

人生を変えた一つめは、パッチ・アダムスっていう米国のお医者さん。赤い鼻の。

「Quality of Life」という概念を強調している人で、その「QOL」という概念を見た瞬間に、”人生には質があるんだ!”と。

つまり、見えないものに価値があるんだというのが、当時31歳の僕にとって衝撃的だったんです。

何をやっているとか、病気の何を治すとか、勝った負けた以外のところに、目に見えない質っていうのが、この「生きる」の中、「すべて」に存在しているんだってことにガーンと来たんですよ。

パッチ・アダムスにとっては「笑い」という素材だった。僕にとっては何だろうと考えたときに「スポーツだ!」と思ったんです。「スポーツこそ、人のQOLを向上する。スポーツは人の人生を豊かにする文化なんだ」という思いがありました。

それから5年間、ライフスタイルマネジメントと、体育会系の選手のコンディションサポートをあらゆる面でやりました。

で、結局最後に大事なのはメンタルだなって、だんだん思うようになったんですよ。

どんなにいいライフスタイルマネジメントをしても、結局、行動変容のもとは「心」じゃないですか。どんなにいいコンディションを作っても、やる気がなかったら負けるし。

そのあと、モントリオール五輪のライフル射撃の金メダリスト、ラニー・バッシャムさんが提唱する、「セルフイメージ」という概念に会いました。「心には常に揺らぎがあって、その揺らぎがパフォーマンスの揺らぎを作っているんだ」と。射撃なんていうのはまさに分かりやすくて、心が揺らいだら、的を目指している銃が揺らぐと。

羽物

揺らいだら、はずれますよね。

辻

そうなんです。結果のほとんどは心の揺らぎが作っているんだと。

「揺らぎ」と「とらわれ」
辻

そのうちに、人間は「揺らぎ」の部分もあるけど、もう一つ、「とらわれ」の部分があるなと思ったんですよ。最初から「無理だ」とか「難しい」という固定概念や思い込みがあったとき、そのとらわれの状況に気づかないと、克服できない。何かいい理論はないかなって、ずっと思っていたんです。心理学ではセルフコンセプトという部分ですね。

40歳を超えたころ、チクセントミハイの「フロー理論」を読んで、“これだ!”と思ったわけです。

厳密に言うと、彼は「ゾーン」に近い状況を指しているけれども、もっと広義なフローな感じをみんなに伝えたいなって思ったんですよ。これを日本語に訳したら、まさに「揺らがず、とらわれず」じゃん!って僕は思ったわけです。

中土井

はー、なるほど。

辻

なので、チクセントミハイや天外伺朗さんが言われている、狭義のゾーンに近いフローよりも、もっと手前、「なんかみんな揺らいでない?」とか「とらわれているでしょ?」といった、「揺らがず、とらわれず」を日常のなかでもっとライトに作っていくのが現場の実用的にはいいかなと思ったんです。

急にゾーンにはなれないし、完璧なフローを目指しすぎていて、かえって”ノン・フロー”になってしまうからです。

中土井

なるほど。

「揺らがず、とらわれず」の「とらわれず」はなんとなく分かるんですけど、セルフイメージの「揺らがず」というのは、集中力が削がれているような状態ですか。

辻

そうです。

不安な状態だったり、イライラとか、がっかりとか、むかつくとか、まあ、緊張しすぎている状態とか、怒りや落ち込んでいる状態を「揺らぎ」と僕は呼んでいます。

中土井

なるほど。

「とらわれ」との違いはなんですか。

辻

「とらわれ」は、ある固定したものに対して接着してしまって、その状況に対して心が持っていかれて、つまり、動きがなくなっているんです。

だから、矛盾しているようですけど、感情的な揺らぎと、潜在意識的なもののなかで何かにとらわれている感じ。

中土井

なるほど、逆に言うと、とらわれがあると揺らぎやすくなるってことですね。

辻

そうです。その通り。

不必要なとらわれによって、揺らぎがそもそも生じているって感じです。

中土井

面白いなあ。

辻

常にフローな感じをライトに作るために、僕は脳の使い方と思考習慣っていうのを大事にしています。

たとえば「ポジティブシンキングしている間はとらわれているでしょ?」と。

「雨もいいことなんだと思え!」とか。「池に入れたのもチャンスだと思え!」というのはとらわれているし、フローにはなれないと。

というのも、イチローとか吉田沙保里を見ていると、ポジティブシンキングは一切していないんですよ。

中土井

へー、そうなんですか。

辻

ただあるがままを受け入れているんですよ。

中土井氏
自分の意味づけに気づく
辻

ポジティブシンキングは、外側に心が持っていかれていますから、実はフローにはならないんです。

羽物

「マイナスにとらわれないようにしている」んだけど、「プラスにとらわれている」ということなんですね。

辻

そうです。

だから、マイナス思考も、プラス思考も実は同じだと思っています。ただ意味づけの違いだけであって。

そもそも僕の根幹にある理論は「すべての理論に意味づけをしているのは人間で、その意味づけによって揺らぎと、とらわれが作りだされている」。意味の生き物だから。

「雨は嫌だなあ」・・・「嫌」な雨は降っていないし。

「残り3秒だ。ヤバイ」・・・ヤバイなんて3秒はそもそもないし。

「魔物の住む五輪」・・・魔物なんてものは脳が作りだした意味でしょ。

僕の活動としては、ライフスキルという思考をつかってそもそも意味のついてないものに「意味づけしている自分に気づくこと」を徹底的にやります。

フローとU理論の関係って何なんだろうかなって、僕も熟知していないので申し訳ないですけれど、U理論の谷をくだっていくときの、あの「とらわれず」って、チクセントミハイさんが言っている「フロー」な感じでもあるなと思うんですよ。ゾーン的な。

体験理論なので、論理的にものごとをやって、全部理屈でこねている人より、走ったり、スポーツしたりしている人の方が、「あの感覚なんだよね」って、なんか素直に入りやすい。フローの体験がある人が「U理論」の体験を享受しやすいんじゃないかなって思うんです。

羽物

そうですね。認知って人によって大きく異なりますね。

代表 羽物
羽物

子供たちのサッカーの試合後に、負けた理由や課題についてコーチたちと話すと、人によって言うことがみな違うんですね。同じ試合を見ているはずなのに、そもそもその人への物の見え方が違うんですよ。どうやら自分の見方にとらわれているようなのです。

コンサルティングをしていてもそうです。企業の課題は?という問いには、『U理論入門』にも出てきますけど、「トップがよくない」とか「現場がちゃんとしていない」といった自分の見方からの答えが挙がる。

ところで、フロー化するための自分のあり方、あるがままを受け入れるための自分を作っていくことはできるんですか?

辻

それって結局、気づきなんですよ。すべて意味でとらえているけれども、元々は意味などついていない。(目の前の本を指さして)これは何色ですか?

中土井

青ですね。

辻

本当ですか?

中土井

この見える現象を「青」だと認知・意味づけした、というのが正しいんですね?

辻

そうですよね、それが正解ですよね。

世の中には「青」などはないわけで、こう見える何かに僕らは青という意味づけをしている。

人間とは意味をつけて生きる生きものなんですが、今の世の中は、あまりに「認知」の脳が暴走して、この「意味」にまみれているんですよ。

それを鎮静化するために、それに気づく力や感情に気づく力を養う。意味づけしている自分に気づき、自分は今どう感じているのかに気づくというベクトルを徹底的に鍛える。意味は外へのベクトル、自分という内へのベクトルを養う感じですね。

”嫌だ”という意味をつけたとき、そもそも”嫌だ”という仕事はないと気づく。「それなのに俺はムカついているだ」という感情に気づくということをしていくと、だんだん、暴走が静まっていくんですよ。そのやり方はこれまでのポジティブシンキングとは違いますよね。

内側に目を向けることだけをただやるんです。

「自分の心が機嫌がいい」という価値を考えるだけで、「その方がやっぱりいいアイデアでるな」って気づきます。

外側に対する対策や対処の脳じゃないんですよ。だから、すっごい「U理論」に似ているんです。

本対談は、2014年4月に旧BizLoungeに掲載されたものの再掲です。

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辻 秀一

辻 秀一

投稿者プロフィール

スポーツドクター。株式会社エミネクロス代表
慶応病院内科医よりQOL向上をミッションに株式会社エミネクロスを設立。スポーツ心理学を日常生活に応用した応用スポーツ心理学をベースに、パフォーマンスを最適・最大化する心の状態「Flow」を生みだすための独自理論「辻メソッド」でメンタルトレーニングを展開。エネルギー溢れる講演と実践しやすいメソッドで、一流スポーツ選手やトップビジネスパーソンに熱い支持を受けている。また、「スポーツを文明から文化」にすることを理念に一般社団法人カルティベイティブ・スポーツクラブを設立。プロバスケットチーム東京エクセレンスをGMとして運営。「スポーツを文化にする」を理念とし、スポーツを通して人生を豊かにする。

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