• 2016/3/1

【第3回】東日本大震災から5年。プロボノ運営を続けてきたプロジェクト結の発足から今日に至る活動の原動力を振り返る。

2011年3月11日、東日本大震災発生。その直後から被災地の支援活動を始めた長尾さん、中川さんは「まちごと」というプロジェクトを経て、プロジェクト結を始動しました。それから4年強の2015年8月、プロジェクト結の主要活動のひとつであった「日常支援ボランティア」の受け入れを、148期を最後として休止。開始当時から理事として活動に加わっていたスカイライトの和田が、当時の振り返りと休止に至る想いを伺いに長尾(あきら)さん、中川(あや)さんを訪ねました。BizLounge編集部の小川も参加しています。

第3回は、支援活動の難しさと悩ましさについてのお話
自立支援というジレンマ
中川
中川さん

事業が継続できているといえばできている。でも、順風満帆かというとまったく違う。お金の問題もそうだけど、人の問題も出てくるし。

長尾
長尾さん

櫛の歯がかけていくように、どんどんどんどん人が来なくなるしね。

中川

それは東京の運営側の話?

長尾

そう。

中川

それもあるけど、石巻と東京の間にあるつなぎの難しさっていうのも、やっぱりあると思う。石巻の文化と東京の文化と?東京の文化ってのも変だから?石巻以外の人たちの文化とが、お互いに強みとして活かされていくという風にいえば聞こえはすごくいいけど、そんなに簡単ではないなっていう感じはある。

小川
小川

どうしても、支援する側/される側ってかたちになってしまうってことですか?

中川

「支援する側/される側にはならない」っていうのも変だけど、そこはたぶん気をつけてきている。少なくとも、支援されてあたりまえって人はわたしの周りにはいない。でも・・・、なんだろ、難しいな。

長尾

世の中がもっとこういう社会になったらいいよねっていう姿は、震災前からずっと思い描いているところもあったし、それについての話も随分してたよね。自立した市民、自立した社会になるといいよねって。だから「新しい公共」みたいなのもすごく響いた。

で、石巻に行った。でも「こういう地震が起きたから、こういう街にしたいよね」とか「これを機に、こういう学校にしたいよね」って話にはなかなかならない。想像以上にぼくら「市民」は「お上」に依存してたんだよね。

中川

なかなか、すぐには難しいという気はしている。でも、そう語ってきてはいたと思うよ。

長尾

そうね、ことあるごとに語ってきた。

中川

こないだの震災でつらい思いをしたけど、前向いて新しいことをやっていきたいっていう人たちにもたくさん出会ったし、そういう人たちと付き合っていきたいなという気持ちも正直ある。

石巻のハードとしてのまちづくりみたいなことについては、わたしは関わりが薄れてきてしまっているけど、石巻もだんだん変わってきているのかもしれないよね。

長尾

うん、上手にもとに戻っていったということですね。プレ3.11に上手に戻った感じはする。

でも、わたしたちがこの街をつくっていくんだっていう感じ・・・なんて言ったらいいんだろう・・・こういう街をつくっていこうとか、こういう未来をつくっていこうというビジョナリーなものとは、まだすごくギャップがある感じはする。

中川

結でいうと、石巻で働いているスタッフの人たち増えたよね。10何人いるわけだから、すごいことなんだよ。

長尾

ものすごいことですよ。

他の団体が驚くぐらい。「えーっ、そんなにいるんですか?」って。みんな東京の人だと思ってたって。

中川

パートタイムでも働いている人の数を教えてっていう調査があって、回答を出したら、「東京の人はいれないでください」って言われちゃった。「いれてません」って答えたんだけど、そのくらい、たぶん知られてない。

でも、じゃあ、そういう人たちの中で、「パートの仕事としてやってます」にプラスして、「こういうことをしたい!」という人をどのくらい増やせたかというと、まだ少ない、と感じる。

長尾

そうだね。

中川

最初の頃、支援される側から支援する側になりたいから一緒に働きたいって言ってくれる人もいて、その時すごく嬉しかったんだけど、パートの仕事として雇われる側と雇う側みたいな関係性になってしまう可能性も秘めている。と同時に、もう3,4年一緒に石巻で会ってるから、わたしたちに対するお返しみたいな感じで一緒に働きたいですっていう風に言ってくれる人もいる。

長尾

そうね。すごく嬉しいし、ありがたいことだけど、そこを求めてはいないんだよね。

中川

ありがたいんだよ。すごくありがたいし、わたしたちが人手が欲しい時に一緒に働いてくれれば、もちろん、すごく嬉しいんだけど、その先に一緒に行かなきゃいけない感じがする。

長尾

企業内リーダー育成のジレンマみたいな話だよね。企業内でリーダー育成したら辞めちゃうわけだから、経営者にとって都合のいいリーダーを育成したい。社内起業家はいいけど、辞められたら困る。

中川

そういう意味では、結のいえ(託児所)を、湊水産みたいな会社が引き取って一緒にやっていこうという方向性になってくれているっていうのは、すごくありがたい話。結としてもいいシナリオ、いずれは現地化したいという。誰でもいいわけじゃなくて、自分たちもやりたかったんだっていう人たちがやってくれる。一緒にやろうよって言ってくれる。どうしたらいい?って聞いてくれる。

結のいえとは、震災によって一時託児所が足りなくなったため、結が保育士さんを現地で雇って立ち上げた託児所のこと。
長尾

でも、湊水産も自分とのつながりの「中」で起きている出来事だから、欲をいえば、ぼくのネットワークの「外」の人が結のいえみたいなのやりたいんですって突然来てくれたら、すごく嬉しくって、あっという間に辞めたかも、結を。

和田
和田

あきらさんはそういうの期待しているんですか?

プロジェクト結で、理想的なコミュニティづくりだとか、新しい地域社会ができるといいねとか、最初の頃から言ってた人もいたじゃないですか。現地からそういう人が新たに来て、「やるぜ!」みたいに盛り上がってくれるといいな、みたいなイメージってあったんですか?

長尾

ない、ない、ないですね。

和田

じゃあ、どんな感じですか?

長尾

どこで、辞めようかって考えてる、いっつも。どこが引き時なのかなって。続けることで石巻の人たちの自立を阻害しているなって感覚もするわけです。おれたちがやればやるほど、あの人たちがやる機会を奪ってしまうことにもなるなぁって思ってて。答えは出ないんですけど。

でも、以前ボランティアで手伝ってくれてた人が一緒に働きたいって戻ってきたり、そんな出来事があると、頑張ろうかなって思っちゃう。続けたことに意味があるのかなって。

小川

こういう風なコミュニティが、というか、現地の志ある人がひっぱっていくみたいなかたちを長尾さんが理想としている上では、いまの長尾さんの存在が邪魔になってしまうんじゃないかっていうそこの矛盾。

長尾

葛藤、ジレンマ、ですね。

小川

ってことは逆に、理想はあるんですよね?

長尾

そうですね。もっと分かりやすく理想を言えば、あくまで例えですけど、茨城で水害がありましたよね。それに対して「結がやっていたようなことを茨城でやりたいんだけど、あきらくん、どうしたらいい?」って結が支援してる石巻の人から相談があったら、嬉しいかな。

クラウドファンディングってどうやればいいの?とか、結ってお金どうやって集めてたの?とか、スタッフってどうやってまわしてたの?とか。

小川

あー、なるほど。自分たちがやってきた活動のスタンスが、主体を移して広まっていく感じですかね。

中川

続けているからこそ、「いまだったら一緒にできるな」っていう風に思ってくれる人たちがいると思うんだよ。一瞬の出来事としてではなくて、続けているから。

長尾

続けているから、この人たちは信頼に足る人だっていう評価はすごくあるよね。

中川

そうそう。わたしたちも一緒に作っていきたい、助けてもらってるばかりじゃなくて、ちゃんと自分でやりたいんだっていう人もいるわけですよ。その人たちと一緒に何かをつくっていくことが出来ているっていうのは、すごくラッキーなことだと思う。

すべてを手放すっていうのは、すごく時間がかかることだと思っているから。

長尾

「じゃあ、ほんとに手放せるのか?」って言ったら、ムリだからね。

中川

ムリな部分もあるけど、時間をかければ、現地の人たちと連携して、徐々に手放していくみたいな方向になっていくと思うよ。そうしていきたいし。

長尾

そうだね。

中川

「いいんだよ、東京とか石巻とか関係ないんだよ」っていう風になっていく日が、きっといつかは来ると思ってる。まだまだ時間がかかることだから、いまの段階では、わたしはジャッジできないと思う。

誰かの自立を阻害しているんじゃないかって思うことは大事な気がするけど、まだわたしは、誰かの自立を阻害しているっていう気持ちにはなれてなくて、一緒にやって行こうよって言い続けている段階な気がしている。まだまだこれから行けるって思ってる。

だってさ、時間かかるもん。現状まだ仮設住宅に住んでる人たちがさ、次のことをどう考えるとかっていう風になれない気持ちも分かるしさ。

「やりたい人ができることをやれるだけ」
長尾

そう時間がかかる。でもさ、どんどん辞めていくんですよ、プロボノメンバーが。

和田

まあ、そうですね。

長尾

フェードアウトが上手なんですよ。

和田

「やれることをやれるだけ」が結のモットーですよね。そういう意味では違和感はないのでは?

中川

それをさ、みんな言い訳にいなくなっちゃうから。

長尾

そう、『「やりたい人」が「できること」を「やれるだけ」』なんですけど、「やれるだけ」の解釈が違う。ぼくは「やれる限り」「限界を超えて」なんだけど、「わたしのできる範囲で」「余暇でやります」というひとも多い。

中川

まあ、いいんだよね、それは。

長尾

まあ、いいんだよ、それは。だから、ぼかしてるんだから。いいんだけど、ぼくは、限界を超えてでもって意識があって。あんまり、この気持を人前で吐露することはないんですけど。

中川

「石巻の住民と東京のメンバーをつなげて、新しい教育のカタチを模索できれば」みたいな理想を簡単に言う人もいましたよね。わたしはすっごくそれに腹が立ってて、いずれはそこに行けるかもしれないけど、そこまで行くのに10年くらいかかるかもよって。

長尾

それ、誰がやるの?って話。

中川

そう、誰がやるのって。そこまでに、そこまでに行くまでに、ものすごくいろんなことがあるじゃんって。大きなことを目指しましょって、いいんだよ、それはいいんだけど。

例えば、どの組織にもあるいざこざみたいな問題やクレームを一身にすべてを受けてるわたしがいて、誰もわたしを助けてくれないし、なんでこんな嫌な思いをしなきゃいけないのっていう時期も長くあった。まあ、それもすごい勉強になったけど(笑)

振り返ってみると、組織の問題、お金の問題、人の問題って変わってきている感じかな。

和田

ずっと問題なんですけどね。

長尾

前例とか事例とかケースが無いから。もう手探りでやるしかなくって、ヒエラルキーもないからトップダウンが効かないし。

中川

でもそう思っていると、ヒエラルキーを期待されたりする。

長尾

「言ってくれたらやりますから」ってね。

中川

「あやさんは上の人なんですから、その自覚を持ってください」って言われる。わたしは同等だと思っていたのに。そこをお互いに理解して歩み寄るのにすごい時間がかかった気がする。。

長尾

そうね、時間かかったね。

ホラクラシーで行きたいんです、ぼくらは。

ホラクラシーとは、社会や組織ガバナンスの考え方で、階層を作らず、権限や意思決定を適切な役割に分散して、自律的な組織をつくるという考え方。
和田

それ、東京でやったらどうなんでしょう。同じなんですかね?

中川

同じだよ。

和田

石巻だから、じゃないですよね?

中川

そうじゃない、そうじゃない。

長尾

関係ない、関係ないですね。

辞めない理由
長尾

辞めない人の辞めない理由が知りたいんですよね。

中川

和田くんは、なんで辞めないの?

和田

うーん、とりあえず、乗っかったからっていうのがいちばん大きな理由ですけど。

長尾

辞めてった人多いじゃないですか。

中川

うん、みんなとりあえず乗っかったけど、やめた人も多いわけじゃん。

辞めない理由は?

小川

お二人は何で辞めないんですか?

中川

辞められないからです。

長尾

始めたからです。

和田

同じじゃないですか(笑)

中川

まあ、美しい理由としては、石巻に友達がたくさんできたっていうのもあるし。

長尾

湊水産の社長夫妻がもともと友達だったからっていう理由もある。

で、その湊水産に保育所の機能(結のいえ)を移管していくんで、辞められないですよ。

向こうの社長夫妻に「親戚みたいなもんだから」って他の人に紹介されるわけですよ。

辞められないですね。死ぬまで。

中川

あと、辞める理由もない。

長尾

ないね、そうだね。

中川

そ、辞める理由がないの。辞めてった人たちは、結婚するとか、なんか、妊娠しただとか、他に仕事が忙しいとか、なんか、そんな理由がある。

和田

辞める理由が確かにないっていう。賃金があるわけじゃないんで。

長尾

そうなんですよね

和田

お金たくさんくれる仕事があるから行きますってわけにもいかないし。忙しくて辞めますっていっても、忙しくなくなったらまたやればいいじゃんって言われるし。

長尾

ご自身のキャリアを考えた時のこの活動のベネフィットはどうなんですか?

中川

15年くらい教育関係に携わって、いろいろやってきたんですよ。自分が積み重ねてきたものを、この日本の有事である震災の時に活用できなかったら、この15年は意味がなかったんだろうという風に思っちゃったんですよね。その想いは強くて、教育のことに携われているんだからちゃんと活用していかなければ、と。でも活用すればするほど次の自分の課題っていうのが見えてきて、なんていうんだろね、自分の中で大事なものが明確化されてしまった、そういう残念な気持ちっていうのはある。

和田

それ、残念なんですか?

中川

だってさ、やっぱり女性だし、結婚とか出産もしといた方がいいかなって気持ちはあるわけ。したくないわけじゃないし。

長尾

でも、「しといた方がいい」っていうレベル。それ以上にやりたいことが見つかってしまったって感じなんだよね。

中川

やりたいこととか優先したいものっていうのがより強くなってしまった、残念な感じ。そう、残念な感じなんだよね。うーん、男子にはわかんねーだろーなー。そう、わからない。そりゃ、わからないよ(笑)

東日本大震災から既に5年が経とうとしている。プロジェクト結は、震災復興を一時的な救援ではなく、恒常的な活動として現地に根付かせるべく活動してきたことが長尾さんや中川さんの発言から見て取れる。忘れてはいけないのは、彼らがこの目的を引き受け、自分のこととして活動を続けてきていることだ。支援を真摯に自分ごととして捉えることはとても難しい。さまざまな困難に直面しながらも、それを自然体で行っている長尾さん、中川さんに学べることはたくさんあるように思う。

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和田 真輝

和田 真輝

投稿者プロフィール

スカイライトコンサルティング 経営管理サービスグループマネジャー。
大学卒業後、外資系ソフトウェアベンダーに勤務したのち、スカイライト コンサルティング(株)入社。
経営管理や業務改革などをテーマとしたコンサルティングに従事。
業務の傍ら、東日本大震災の被災地支援団体であるプロジェクト結コンソーシアムを設立し理事に就任。
ビジネスで培った知識と経験をプロボノとして社会に活かす活動を続けている。

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