様々な手法を用いて議論が活発になったのはよいが、次に直面する悩みは、どうやって議論を収束させるか?ではないだろうか。しかし、急いで結論を出そうとあせる必要はない。複雑な問題に対する結論を出すのはもちろん簡単ではないが、必ずしも一気に合意を形成する必要はなく、議論の発散と収束のプロセスを繰り返しながら、最終合意を得れば良いのである。
合意形成には、発散と収束の繰り返しが必要
複雑な問題に対応するには、問題を分割して取り組むのが一つのやり方である。分割した小さな問題について、議論を重ね、合意を得る。さらに次の問題について合意を得る。この繰り返しによって、複雑な問題も解決しやすくなるのである。
行動意思決定学の学者であるJ・エドワード・ルッソとP.シューメーカーは、「意思決定のプロセスには、様々な意見を引き出す発散の段階と、そこから最終結論を導く収束の段階が必要である」と説いている。しかしロベルト教授が研究した結果、有能なリーダーは、発散と収束のプロセスを一度ではなく何度も繰り返すことによって、結論に導いている例が多いと紹介している。
例えば、第2次世界大戦でノルマンディー上陸作戦を決断したアイゼンハワー大統領は、対応できる範囲に問題を分割することによって結論に導いた。一つの作戦について一気に合意を得ようとはせずに、上陸の日程、空爆戦略、空挺部隊の活用方法、海峡横断攻撃と同時にフランス南部への侵攻を決行するかなどについて分割して議論した。部下となる将軍達がフランス南部への侵攻案に合意できずにいると、まず必要となる海峡横断攻撃に要する資源量について検討させた。この点が合意できた時点で、資源調達に時間がかかることが判明し、皆がフランス南部への侵攻案を延期することに合意しやすくなった、という具合だ。
中間合意を得る方法
では、どのようにして中間地点の合意を得るか。本書では、プロセス視点と、結果視点の大きく2つのタイプに分けて、その方法が紹介されている。
プロセス視点の中間合意には次のようなものがある。
- 目標に合意する・・・これは我々コンサルタントがプロジェクト推進中にもよく利用する方法だ。プロジェクトが進むにつれて、議論に夢中になっていると、当事者は本来の目標を見失うこともある。議論が紛糾したら、本来の目標に立ち返ると、進むべき道や採るべき選択肢が明らかになってくる。もしくは、同じ社内であっても部門や責任範囲によって主張は異なり、利害関係が一致しない場合も多い。このような時には、すべての関係者が同意できる「上位の次元の目標」を再確認するとよい。
- 前提に合意する・・・目標について関係者の合意が得られている場合でも、結論が出ない場合がある。そのような場合は、各自がどのような前提のもとに思考し、議論しているかを確認するとよい。たとえば、経済成長に楽観的な見通しを持った人と、悲観的な見通しを持った人とでは、事業計画に対する考え方も全く違ったものになる。それぞれの前提が異なるためだ。複数の前提に基づいた計画をそれぞれ作成するか、前提をひとつにしなければ議論はいつまでたっても収束しないだろう。
- 決定基準に合意する・・・例えば、基幹業務のパッケージソフトを選定する際に、優劣が付けがたくなかなか決定できないお客様が多い。様々な比較項目を上げ、それぞれについて詳細な調査を行い、結果を数値化して選択肢を選びやすくしても、どれか一つが圧倒的に良い、ということは少ない。機能面で優れたものは高価格で予算オーバーしてしまう、予算内に収めようとすれば、機能が足りず導入効果が薄れてしまう。このような場合は、「何を優先するか?」を事前にヒアリングし、決定基準として決めておくようにするとよい。「何を優先するか?」について合意が出来れば、自ずと選択肢が限定されていく。
結果視点の中間合意には次のようなものがある。
- 選択肢を消去する・・・複数の選択肢を同時に評価し、一気に結論を出すよりも、段階を経て選択肢を消去していくほうが効率的である。先の例であげた基幹業務パッケージの選定の際にも、実際には1次選定・2次選定という形で段階的に選択肢を絞り込んでいく進め方が一般的だ。
- 条件付きで合意する・・・将来に発生する特定の出来事を条件として暫定的な選択を行うという合意の仕方である。ある選択肢について包括的に合意できない、つまりその選択肢の一部には合意できるが合意できない部分もある、といった場合には、選択肢そのものだけでなく、特定の条件を設けると合意が得やすくなる。 例えば、事業の予算編成時に、要求された全ての予算を承認するには問題がある場合に、「優先度が”高”のもののみ承認する。ただし、上半期の業績が目標達成したら、優先度”中”のものも認める」という具合だ。
- 不測の事態への対応計画に合意する・・・不測の事態が起こったときにどのように対応するかを事前に決めておく、いわゆる「コンティンジェンシープラン」を用意しておくというものだ。決断する際には、実行に移した際に失敗することへの不安が付きまとう。事前に、そのような事態への対応方法を検討・準備しておくことで、リスクが回避でき、安心して結論を出しやすくなる。
議論が紛糾してなかなか結論に導けない時や複雑な問題に直面した時には、「問題を分割すると解決しやすくなる」ということ、分割した問題について「中間合意を得る方法がいくつかある」ことを理解しているだけで、余裕を持って問題に取り組めるようになるのではないだろうか。
次回は本連載の最終回として、正しい決断を導き出すための、公正な意思決定プロセスについて紹介したい。